2019/12/22

“サンスーシ”について

(※この記事はボードゲーム紹介Advent Calendarの22日目の記事として書きました。)

みなさん初めまして。北陸のピュアユーロ信者“サトウハヤト”と申します。短く“はと”と名乗っていたりもします。

毎年楽しく読ませていただく一方のこちらのアドベントカレンダーでしたが、今回初めて書き手のほうで参加させて頂きます。駄文にどうかしばらくお付き合いを。

昨日の記事は九州でボードゲームを楽しまれているKINUさんの個人的年間ベストの発表でした。ノミネートの5タイトルは私も納得のラインナップで読み応えがありましたね。(ところでヴァルシュの“深い谷の酒場”、正式な国内流通はないまま終わるのでしょうか。)





さて今回、私は“サンスーシ”というボードゲームについて紹介したいと思います。

“サンスーシ”はドイツ人のゲームデザイナー、ミヒャエル・キースリングが2013年にラベンスバーガー社から発表したタイトルです。

ミヒャエル・キースリングというと最近では“アズール”が大ヒットを記録したことでその名前をご存知の方も多いかもしれません。
他に“ヘブン&エール”や“リバーボート”などのデザインも手掛けており、ここ最近確実に知名度を上げていますが、本作は彼がまだそれほど有名ではなかった頃のタイトルで(あるいはクラマー&キースリングのネームバリューが強くて、あのクラマーの良き相棒としての認識が一般的だったかもしれませんね)、このゲームタイトルを初めて耳にするプレイヤーも少なくないかもしれませんね。

作品の舞台となった“サンスーシ宮殿”はドイツ北東部の都市ポツダムにあるサンスーシ公園にあるロココ式建築の宮殿です。1745年にフリードリヒ2世によって建てられ、1990年には世界遺産に登録されました。


因みに漢名は“無憂宮”(サンスーシがフランス語の“Sans Souci(憂いなし)”から来ているため)というそうです。


上空から見たサンスーシ宮殿。このように宮殿前が6段の美しい階層構造の庭園になっているのが特徴です。




ではゲーム本体を見ていきましょう。


ボックスです。アートワークはジュリアン・デルヴァル。馴染みのない名前かもしれませんが、チケットトゥライド(乗車券)などを手掛けたアーティストです。言われてみると“ああ、なるほど!”と納得される方もおられるかも。


ボックスの背面。


個人ボードです。9つの列(縦列)と6つの行(横列)からなる全54マスから全体の庭が構成されています。
列には“モチーフ”が、行には“色”が割り当てられています。行に書かれている1から6の数字は条件を満たした時に得られる得点を表しています。
54マスのうち15マスにはすでに庭タイルが描きこまれ、これはすでに庭タイルが配置済みであることを表しています。

この個人ボードは最大プレイヤー数と同じく4枚あり、それぞれに表裏があって全部ユニークなので開始時の庭は全部で8パターンあることになります。


中央に配置されるメインボードです。ちなみにコンポーネントのアートワークはデルヴァルに代わって(僕の大好きな)ハラルド・リースケが担当。


庭タイルです。このタイルを個人ボードのマスに配置していくことで各自が自分の庭園を作っていきます。


庭タイルの裏面。ローマ数字はプレイヤー人数により使用するタイルを選り分けるためのもの。例えば3人プレイならⅡとⅢを使うという具合。4人でプレイする場合もちろん全てのタイルを使います。

庭タイルは9種類のモチーフ毎に9枚あります。4人プレイの場合使うタイル枚数は全81枚となります。特にレアリティはありません。


この庭タイル、持ってみるとよく分かるんですが、しっかりとした厚みのあるもので、この分厚いタイルをパチパチと自分のボードに配置していくことになります。ユーロゲームに顕著な分厚いタイルは僕の好きなコンポーネントのひとつでもあります。


庭タイルをメインボードにセットし、ゲーム開始時のセットアップをしてみました。
手番では中央のカラーリングされた10個の枠内に配置されたタイルのいずれか1枚を選び、自分のボードに配置していきます。
周りには山札として適当にタイルが積まれています。


ゲーム開始時各プレイヤーに配られるカードです。全18枚。これらをシャッフルして各自の山札とした後、そこからドローして2枚を手札として持ちます。


カードの内訳。上から順に50点100点マーカー、自由選択、モチーフ9枚、色8枚で全18枚。

色カードをプレイすると2色いずれかの枠の中のタイルが選べます。つまりこのカードを使った場合常に4択ということになります。
モチーフカードをプレイするとそのモチーフが描かれたタイルのうちから1枚選ぶことになります。
自由選択はいわばジョーカーで、これを使った時のみ10枚の中から自由に1枚を選べます。貴重なカードなのでここぞという時にタイミングを見極めて使っていきたいカードです。


先程のメインボードをアップにしてみました。
階段のモチーフのカードを使うと場の2枚のいずれかが選択できます。噴水のカードであれば1枚しかないので選択肢はないことになりますね。
カードの使い方、タイルの選び方が分かって頂けると思います。


ゲーム開始時の個人ボード。このように上部に貴族9人を配置してゲームを開始します。

この光景、僕なんかは同じくキースリングが今年発表したばかりの新作“雅(Miyabi)”の灯篭コマを配置した時を想起してしまうのですがどうでしょう。同じタイル配置ですし、まあ少々強引ですが“雅(Miyabi)
”のルーツは本作にあるとかないとか、そういう仮説も可能かなと(まあ半ば冗談ですがw)。


プレイヤーは手番ではまずカードをプレイしてタイルを獲得し、それを配置します。

配置はそのタイルがあったメインボード上の枠の色とそのタイルのモチーフに合致したマスにのみ置けます。そのようなマスは1つしかないので配置場所における選択肢はありません。
またもしそのマスにすでにタイルが配置済みの場合、裏面の庭師の方を向けて対応する行か列のいずれかのマスに配置します。それも全て埋まっていた時に限り任意のマスに配置できます。


ゲームが始まって何枚か庭タイルが置かれた個人ボード。

カードをプレイし、タイルを配置したら、貴族を移動させます。この貴族の移動は任意で、毎手番必ず行うアクションではありません。

貴族はタイルに描かれた道に沿って、その列の、より下方(手前)に移動する必要があります。移動の途中で他の列に入ったり、上方に行くのは構いません。移動を終えた時に先程の条件を満たしていればいいわけです。


いちばん左の貴族を赤い線のように移動させてみました。これで4点獲得です。もうひとつ下のタイルまで移動すれば5点だったのですが、


次のラウンドでこのように移動すれば5点なので結果的にはこちらの方が高得点ということになります。このようにして得点を稼ぐのが本作のポイントのひとつなのです。

この後メインボードにタイルを補充し、手札を1枚補充したら手番は終了です。

こうように手番を重ねていき、全18枚全てのカードを使い切ったらゲームは終了です。(この“全てのカードを必ず使い切る”という点もまたポイントのひとつで、そのことを意識したマネジメントも本作の醍醐味のひとつですね。)

ゲームが終わると完成した行や列、そして話が前後してしまいましたがゲーム開始時に配られる2枚の指示カードにより得点できます。


こちらがその指示カード。
最初に配られる2枚の指示カードは最後まで自分だけが知り得る秘匿情報で、これらのカードが配られたあとで、最初の手番の前に、プレイヤーは個人ボードのどちらの面を使うのか選ぶこともできます。

因みに拡張も本体に同梱されています。


これがその拡張ボード。こちらも表裏2面あります。


拡張を取り入れる場合このように個人ボードにセットします。配置するマス、タイルに応じてボーナスやペナルティが発生します。


どうです?なかなか面白そうじゃないですか?シンプルで例外のない実にすっきりとしたピュアユーロであることが分って頂けたでしょうか。

残念ながら既に絶版で国内流通も終了していますが、中古であれば比較的安価で入手もしやすいと思われます。この記事を読んで少しでも興味を持って頂けたのであれば、一度はプレイする価値は十分にあると思います。





さて最後に蛇足といいますか、僕の本作に対する印象を少々。

このようにルール自体は簡単で分かりやすいファミリーゲームですが、パズルチックでインタラクションは希薄、また手なりでのプレイに終始しやすい傾向など僕自身の好みのコアな部分とはやや外れるというのが実は正直なところです。

ただそれは個人の好みの問題であり、端正で素直な完成度の高いピュアユーロ特有の輝きは発表から6年を経ても陰ることはなく、もし本作が話題にならないという理由でボードゲーム愛好者の記憶から消えていってしまうのはなんだか惜しい気がした事もあり今回このように紹介してみました。

実際本作は発表の翌年にSdJのリコメンドを獲得しており、それは本国ドイツでの評価の高さを窺わせます。
またあの(ピュアユーロには些か厳しい)BGGでレート7.1(2019年現在)というのも意外だったりします。

(それらを勿論否定するわけではありませんが)ここには派手な特殊効果やコンボも濃厚で魅力的なフレーバーもガチガチの競技性もヒリヒリするようなマゾヒズムもありません。ここにあるのはピュアユーロ特有の淡泊な味(そしてそれのみ)です。濃厚で高級なグルメ料理に食べ飽きてしまったなら、時にはこんな一汁一菜は如何でしょうか。

(この流れでピュアユーロの定義や魅力についても色々と考察してみたくなりましたが、話が長くなりそうなのでそちらはまた別の機会にでも…。)

明日はご自身がゲームデザインもされているあかしあさんの記事です。こちらも楽しみですね。では!

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